さまよう恋心

彼の瞳も、唇も、私を嫌っている。
そう思っていたけれど……。

小児病棟の看護師長で働き者のアニスは、心機一転したくて、
ノルウェーの北の果ての島に暮らす弟の誘いに応じることにした。
そこで働いていた料理人兼看護師の代わりを務めてほしいというのだ。
弟の仕事仲間たちはアニスを大歓迎してくれたが、
一緒に働く医師ヤーケ・ファン・ヘルメルトだけは、
無愛想でそっけなく、アニスとはろくに言葉を交わそうともしない。
初対面のときから彼の瞳は冷たく、声には嘲りのような響きがあった。
こめかみに白いものがまざってはいても、整った顔だちはすてきなのに。
しかたがないわ。無関心を装うアニスはまだ気づいていなかったーー
ヤーケこそが、彼女が心から夢中になれる男性だということに。

白夜の国ノルウェーを舞台に、唯一無二の作家ベティ・ニールズが揺れ動く恋心を描いた名作をお贈りします。北欧の厳しい自然にも似た、大柄でがっしりしたヤーケの黒い瞳は氷のようで、口元も険しい……。そんな彼の心情を想像しながら読む楽しさは格別です。