億万長者の花嫁

赤ちゃんがいると伝えたい…。
私の顔を知らないあの人に。

サマンサは巨大企業の受付ロビーに立ち尽くしていた。
社長のチェーザレに、この体に新しい命が宿っていることを
伝えるために来たのだが、いざ口を開こうとすると心が揺らぐ。
彼はサマンサが生涯かけて稼ぐお金を1分で稼ぐ実業家だ。
なによりも、チェーザレは彼女の名前すら知らない。
それどころか目や髪の色、顔がそばかすだらけだということも。
会えばきっと幻滅して、すべてが終わる。
あの夜、一時的に視力を失っていた彼に絶望から求められ、
思いを止められないサマンサは、おずおずと身を任せたから。