小説ハガーニャの風

小説ハガーニャの風
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オーシャンフロント・アパートメントはハガーニャ湾に面している。湾の外縁はサンゴ礁に囲まれフィリッピン海からの潮はこれに遮られ白波を立てる。少々荒々しい。逆にその内側は静かな潟湖の様を見せとても穏やかである。ビーチに植生したココナッツの葉は湾からの風にそよぎ朝の目覚めを告げ、夕の慰めを醸してくれる。湾に望んで右手にはホテル・サンタフェ、左手にはビーチバー・ジミー・ディー、カクテル片手に海に沈みこむ夕日が見たければどちらかへ渚をつたって歩いて出かければいい。もっともこのアパートメントの住民にとってはそれも面倒なことだ。その日の日没時間を調べておき、その10分前に屋外に付設されたパティオに出てグラス片手に椅子に腰かけ、日没ショータイムの瞬間を待てばいい。水平線の向かうに沈む夕日の落下速度は早い。目を閉じ、30秒の後、目を開けると夕日の位置が落ちていることを実感する。その夕日が水平線の上に半分、下に半分の状態になったら、絶対に目をそらしてはならない。一瞬にして夕日が海に沈こみんでしまう。