モスカット一族
ニューヨークのイディッシュ語新聞への足掛け三年の連載、邦訳一八〇〇枚に及ぶ『モスカット一族』は作者自身が「一つの時代を再現することが目的だった」と語るように、分割支配下のポーランドのイディッシュ文化圏を四世代百余人を登場させ具体的事実を連ねて十全に語り継いでいる。この物語はまた、二千年に及ぶユダヤの伝統社会が近代化という世界の潮流の中で崩壊していく、一つの社会を生きた最後の人々を赤裸々に描き切っている。あるいはまた、われわれ人類の末路を予見させる物語であるかも知れない。いずれにせよ読み始めたら頁を繰る手の止まらない、読む度に味わい深くなる傑作長篇である。ノーベル文学賞受賞宜なるかな。(三度読んだ編集人一推しの書)